【読書備忘録】「アンと愛情」/坂木 司
- 2021/10/30
- 17:34
”おまんじゅうは、世界を包み込んでいたりしませんか”
同書 帯より
〇出会い
この本の出会い、といえば私がよくやる「著者ながし」でのこと。
「著者ながし」とは、(この作家さん面白い!)と思ったら、片っ端から作品を手にかけていく(言い方)やり方のこと。
はるか昔、映画が面白かったころは、俳優さんでこれをやっておりまして。
トム・ハンクスやロビン・ウィリアムス、ゲイリー・オールドマンやブルース・ウィリスなどなど・・・。
いわゆるハリウッドムービー、ハリウッドスターですね。
わかりやすいのが好きで(笑)
まあ、ロバート・デ・ニーロ攻めた時に、初めて「濃いぃぃ」ってなって、映画の俳優ながしは終わるのですけどもね。
勝手なネーミングなので、ググったりしないでくださいね(笑)
つまり、最初は坂木さんの「引きこもり探偵シリーズ」が始まりだったのでした。
引きこもり探偵シリーズは、出会った当時に読んだっきりになっていますが、すぐ涙ぐんじゃう「引きこもり探偵」に、「泣くなぁぁぁぁぁ!」と心の中で叫んだ覚えがあります(笑)
なんかね、どうにも(主に喝を入れて)応援したくなっちゃう引きこもり探偵の印象が妙に後をひいたシリーズでした。
特に最後に主人公が、彼に新しい世界を投げかけて終わったことが、私を「著者ながし」に走らせたのは間違いないと思います。
坂木さんの世界をもっと知りたくなっちゃって。
そして、出会います。
もちもちで、ふわふわで、きっと見た目はまあるくて。
人あたりが良くて、一見悩みがなさそうに見られがちな主人公「アンちゃん」に。
〇シリーズ一作目「和菓子のアン」、二作目「アンと青春」
今回の備忘録はシリーズの三作目。
一作目に出会ったのがいつだったか、これまた定かではありません。
発売は2012年とのこと。第二子を出産直後なので、おそらくタイムリーには出会っていないはず。
ほとんどのシリーズがそうだと思うのですが、やっぱり一作目から読むのがおすすめ。
なぜか。
理由をひとことで言うなら、「アンちゃんの成長が見れるから」とかいうことではなく(すでにひとことじゃない)、一話読み切り風ではあれど人間関係が繊細に連綿と作品を通してつながっているから。
もちろん、人間関係が分からなくても楽しめます。
「人が死なないミステリ!」という、謎解き部分の面白みは十分以上。
〇人が死なないミステリ
これは、いずれ備忘録に残したい作家さん・大崎梢さんの「書店員シリーズ」にも当てはまるのですが、ミステリの入り口は巨匠・赤川次郎さんだった私にとって、「人が死なないのに、ミステリが成り立っている」ことの衝撃は相当なものでした。
だって、金田一少年の事件簿でも、名探偵コナンでも、シャーロック・ホームズでも誰か死ぬのがお話のはじまりでしょ?
そして、謎解きのゴールは「真犯人を見つけること」。
あ、念のために断っておきますが、読書は好き、ミステリも好きですが、決してコアなファンではないので感想が軽くてもお許しください(汗)。
本作の舞台は、デパート地下食品売り場にある「みつ屋」という和菓子屋さん。
お客様とのやり取りの中に謎があり、和菓子を介してその謎が解かれていく、というスタイルです。
謎解きのゴールは、「お客様の思い」だったり、「過去の物語」だったり、「今現在の人間模様」だったり。
真犯人を見つけた先に動機が語られ、そこに人の思いや物語、人間模様が描かれることも多々あります。
でもそこにはどうしても、「亡くなった人」がいて、「取り返しのつかない事実」があります。
人が死なないミステリは、謎解きで垣間見えた人間模様が、たとえ良好なものでなくても「次はきっと」、「これからはもっと」という「希望」や「祈り」を許してくれる未来があるような気がするのです。
〇作品を通して、繊細に連綿とつながる人間関係とアンちゃんという主人公
私はこのアンちゃんシリーズで「泣きます」。
本当に、心のやわらかい、優しい部分が、そっと、でも直接揺り動かされるからです。
謎解きのゴールに明かされる、人間模様、人の思いが、読み手にも覚えのあるひどく近しいものだったりするからかもしれません。
そして、アンちゃんという主人公。
高校を卒業したばかりのアルバイトという立場の彼女は、年齢相応に自分の立ち位置や未来のこと、周囲の人間関係などで悩みます。
きっと誰でも覚えがあるような悩み。
でも、涙が出るのはその先。
苦しい思いも、悔しい思いも、うらやましいという妬みも、自分自身への失望も、どういう訳か和菓子で謎が解かれる頃には、まるっとくるっと包まれてしまうのです。
いいよいいよ、それでいいのよ
ありのままでいいのよ
和菓子には歴史があります。
歴史があるということは、それだけ人がかかわっているということです。
和菓子の描写が終わるころには、喜怒哀楽もねたみそねみも、大きな歴史のうねりのような、雄大な人の営みがつむぐ風呂敷のようなものに包み込まれているのです。
包まれる、というのは、なぜか許されたような気持ちになります。
そうして包んでもらったら、いつの間にか背筋がすっと伸びている・・・。
多分、そこが私の「涙ポイント」なのです。
”おまんじゅうは、世界を包み込んでいたりしませんか”
〇ぜ~んぶつつんでしまった「和菓子」という食べ物
倉敷いちむら「豊年」
本書の舞台は和菓子屋さん「みつ屋」です。
謎解きのキーは和菓子です。
和菓子が食べたくならないわけがない。
倉敷いちむら「秋桜」
しかも、見た目、味だけじゃない和菓子のポテンシャル。
坂木さんはそのポテンシャルをあますところなく、物語の中で披露してくれます。
倉敷いちむら「錦」
食文化が地域によって独自に発展していることは周知のことかと思いますが、和菓子も例にもれず。
材料一つ、製法一つとってもさまざまです。
私、何回読んでも、何回調べても、覚えられません(笑)
こなし、練り切り、蒸す、蒸さない・・・
どうみょうじこ、なぁ・・・(遠)
倉敷いちむら「深山路」
そんな和菓子の魅力の中でも、私が個人的に鳥肌が立つほど面白いと思ったのが、その「成り立ち」にまつわるお話。
どうしてこの和菓子にこの名前がついたのか、という由来の話かと思いきや、さらに奥から出るわ出るわ、逸話の数々。
ことば遊びのように次々と展開される名前の七変化の面白みもさることながら、和菓子がその色、その姿、その味で表すものが何なのか・・・。
和菓子のルーツを紐解いてみると、結局、目の前の和菓子が心の機微も、人の営みも、四季も、日本の文化をぜ~んぶつつんでしまったんじゃないか、ってね。
〇最後に装丁の話
こうして文字に残すために、新ためて一作目、二作目にさかのぼってみると、ふと表紙の和菓子はなんだろな?ってことが気になりました。
あんまり詳しくは調べず、さらっと憶測するにとどまりますが、一作目「和菓子とアン」は「みつ屋」印と梅の木印の「薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)」、二作目「アンと青春」は多分、求肥(ぎゅうひ)につつまれた黄身餡のお菓子で、やっぱり梅の木印。
そして本書は表紙いっぱいのおまんじゅう。
おまんじゅうにあしらわれた、この葉っぱ・・・おっと、これはネタばらしになってしまうかも?
おまんじゅうの色が「緑」なのも、もしかしたらあのお話からの引用かしら?
そうしてやっぱり、奥のピンク色のおまんじゅうにも梅の木印・・・。
そういえば、三作とも著者名の下に梅の木のイラスト・・・?
そうして気づいた装丁の意味。
「ああああああ!そういうことかぁ!!」
三作目にして、やっと気づいたのでした。
とはいえ、前作の薯蕷饅頭と求肥と黄身餡の組み合わせを作中のお話とひもづけるには、読了から時間が経ちすぎているよう。
こりゃ、もう一回読まねば(笑)
最後まで読んでくださってありがとうございました。
余談ですが、第一回目の備忘録でご紹介した「西の魔女が死んだ」。
娘に読んだもらえる日が・・・なんて言っていたら、直後に娘の方から「この本が面白そう」と言い出しまして。
なんでも、学校の授業で紹介されたのだそうです。
同じ中学生が登場するお話、というくくりなのだとか。
満を持して、大事に持っていた本を渡しました。
時間をかけて、ゆっくり読んだようです。
途中、「あの話、おもしろい」とも言ってましたが・・・
読了後の感想は聞かずじまい。
で、それでいいかなぁって思います。
とかく、口を出しがちなのをいつも後悔する日々ですから、本の感想くらい親がいじくりまわさずに。
いつか、本書も目に留まればいいなと思います。
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